2 医薬基盤・健康・栄養研究所 ヘルス・メディカル微生物研究センター1 大阪公立大学大学院 獣医学研究科 獣医感染症学教室 目 的カンピロバクター感染症は、急性胃腸炎を主徴とし、ギラン・バレー症候群などの重篤な神経合併症を引き起こす、公衆衛生上きわめて重要な細菌性感染症である。抗生物質は従来有効とされてきたが、薬剤耐性菌の増加により治療選択肢は大きく制限されており、新たな治療標的の同定と制御法の開発が強く求められている。方 法カンピロバクター(Campylobacter jejuni)に特異的なモノクローナル抗体(2B1 抗体)を作製し、その認識抗原の同定および機能解析を通じて、エネルギー代謝に関わる menaquinol cytochrome c reductase complex QcrCと病原性の関連を検討した。結 果2B1 抗体は、急性胃腸炎患者分離株を含む様々な血清型・由来のC. jejuni株に特異的に反応し、C.coliやC.fetusを含む近縁種には反応しなかった。免疫沈降およびプロテオーム解析により、2B1 抗体の標的が呼吸鎖複合体に関わる QcrCであることを同定した。2B1抗体はC. jejuniの酸素呼吸を阻害し、増殖抑制効果を示した。さらに、培養条件の違いにより QcrCの発現量が変動し、これが菌のエネルギー代謝活性および病原性に影響することが示された。具体的には、血液寒天培地と比較してボルトン液体培地で培養した菌ではQcrCの発現と代謝活性が高く、マウス経口感染モデルにおいて大腸での好中球浸潤や上皮バリアの崩壊を伴う腸炎が誘導された。考 察研究はC.jejuniの代謝機構と病原性との関連を明らかにするとともに、QcrCを標的とした新たな制御戦略の可能性を示唆するものである。また、マウスにおける腸炎誘導モデルの確立により、今後の予防・治療法開発への応用が期待される。(参考文献:Front Microbiol. 15:1415893, 2024.)代謝リモデリングを標的としたカンピロバクター感染症の制御の可能性〇細見 晃司 1,2 35P 005
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