第45回 阿蘇シンポジウム抄録集 2025
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1 熊本保健科学大学 生物毒素抗毒素共同研究講座2 大阪公立大学大学院 獣医学研究科 獣医感染症学3 熊本保健科学大学 医学検査学科〇志多田 千恵 1 幸田 知子 2 黒田 誠 3 高橋 元秀 1 目 的牛糞便から分離された破傷風菌(Clostridium tetani)株における新規テトラサイクリン耐性遺伝子の同定と特性解析を行い、その獲得経緯を解明する。また、神経毒素産生細菌である破傷風菌の薬剤耐性獲得の臨床的意義を評価する。方 法牛糞便由来 KHSU-092500-153 株について、薬剤耐性遺伝子のスクリーニングを実施した。Short/long-readシーケンシングのハイブリッドアセンブリにより完全ゲノム配列を決定し、耐性遺伝子周辺のゲノム構造を解析した。テトラサイクリンに対する最小発育阻止濃度(MIC)を測定し、大腸菌における組換え発現実験により耐性機能を確認した。結 果KHSU-092500-153 株から既知のtet(T)遺伝子と 91.4%のアミノ酸相同性を有する新規リボソーム保護タンパク質遺伝子tet(T2)を同定した。tet(T2)遺伝子は染色体に組み込まれた 86.1 kbのプラスミド様エレメント上に位置し、このエレメントの GC含量(30.8%)は染色体(28.9%)より高値を示した。KHSU-092500-153 株のテトラサイクリン MICは 3.0µg/mLで、参照株 (0.094µg/mL)と比較して 30 倍以上の感受性低下を示した。tet(T2)遺伝子を発現する大腸菌組換え株においても 3µg/mLの MICが確認され、グラム陽性・陰性菌の両方で機能することが実証された。考 察新規テトラサイクリン耐性 tet(T2)遺伝子を初めて同定した。tet(T2)は、我々の先行研究で報告したtet(M)とは異なるテトラサイクリン耐性遺伝子であり、破傷風菌における薬剤耐性獲得の多様性を示している。tet(T2)はBacillota(Clostridium novyiやVagococcus elongatus等)からも同定されており、tet(T2)エレメントは染色体の平均 GC含量よりも高いGC含量を示すことから、Clostridium属間での水平伝達で獲得したことが強く示唆された。本研究は、家畜飼育におけるテトラサイクリンの使用が毒素産生病原菌に薬剤耐性を付与する具体的な証拠を提供しており、ワンヘルスアプローチに基づく薬剤耐性対策の重要性を示している。牛糞便から分離されたテトラサイクリン耐性遺伝子 Tet(T2) 保有破傷風菌ゲノム解析 47P 017

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