研究者インタビュー

化血研が助成させていただいた研究者の方々の研究内容、これまでの経験やエピソード、将来の夢などをご紹介します。

インフルエンザウイルス感染防御における炎症性線維芽細胞の役割解明

2022年度 化血研若手研究奨励助成

研究内容について教えてください

 本研究はウイルス感染時の非免疫細胞の動態を知るために、インフルエンザウイルス感染をさせたマウスの肺から上皮細胞、内皮細胞、線維芽細胞を含む非免疫細胞集団を単離し、一細胞レベルでの遺伝子発現解析を行ったところから始まっています。その結果、上皮細胞や内皮細胞など他の非免疫細胞と比較して、線維芽細胞が非常に多くの炎症促進因子を分泌し、感染の進行に応じて表現型をダイナミックに変化させていること、免疫記憶を制御する特殊な線維芽細胞サブセット(亜集団)が存在する可能性があることがわかりました。線維芽細胞は多くの研究者にとっては組織構造の維持を担う“脇役”のような存在と考えられていましたが、インフルエンザウイルス感染時には線維芽細胞が免疫応答の中枢を担う細胞である可能性が示唆されました。本研究課題ではその考えの元、炎症を促進し組織傷害をもたらしたり、免疫記憶の成立に関与したりする線維芽細胞サブセットを同定し、生体レベルでの重要性と分子レベルでの誘導機構を明らかにしようとしています。

研究者を目指すきっかけ、現在の分野へ進むことになった経緯を教えてください

 私は小さいころから読書が趣味なのですが、たまたま読んでいた本に研究者が出てくることが多く、研究に関して漠然とした憧れを持っていました。そして実際に大学で研究に触れてみると、仮説を立ててそれを証明するというプロセスや、予想外のデータが出たときに理由を考えたり議論したりすることが非常に楽しく、研究者になりたいと考えるようになりました。

 研究分野を免疫学にしたのも、やはり本がきっかけです。多田富雄先生の『免疫の意味論』『生命の意味論』の2冊に深い感銘を受け、免疫学に強い興味を抱きました。また、小さいころから変わった生き物や恐竜・妖怪など、個性的で多様性のあるものが好きだったのですが、免疫学は個性的で変わった細胞がたくさん出てくるので、そういう点も惹かれたのかもしれません。

 線維芽細胞の研究は、現所属研究室の澤新一郎先生が得意とする研究分野の一つです。面接のときに澤先生がおっしゃられた、『新しい細胞を見つけたいんだよね』の一言にひかれ、ぜひここで研究をしたいと感じ、お世話になることにいたしました。

これまでのキャリアで印象に残っている経験を教えてください

 私はこれまで北海道、神奈川、沖縄、福岡と日本全国を回ってきました。在籍したのは同じ免疫学を研究対象とする研究室ではあったのですが、実際には扱う細胞の種類、得意とする手法は全く異なっておりました。研究室ごとに独自の文化があり、PIの先生ごとに独自の哲学があります。異動のたびにカルチャーショックを受ける一方、視野が広がり、様々な角度からものが見られるようになった気がしております。視野を広げるための手段に留学などがあげられますが、研究対象・研究分野を変えたり、得意とする手法が異なる研究室に行ったりすることも重要なのではないかと思います。任期制は研究者にとっては大きなストレスですが、悪い面ばかりではなく、こういった良い面もあると感じています。もちろんずっと同じ場所で研究できるならそれはそれで素晴らしい事ですが、そうでなかったら逆にそれを利用するというのはとても大事な考え方ではないかと思います。

今後の応募者へのアドバイス、若手研究者へのエールをお願いします

 偉そうなことを言える立場ではございませんが、自分が感じたことを述べさせていただきます。

 研究費を取るのは本当に大変で、順調に採択されているひともいれば、なかなか取れずに悩んでいる人も多いと思います。しかしなかなか取れないときこそチャンスで、申請書の書き方などを見つめなおし、能力を上げるチャンスだとポジティブにとらえ、あきらめずに何度も挑戦してほしいと思います。

 特に化血研の研究助成は、チャレンジングな研究を積極的に評価してくれるのが特徴です。小さくまとまるのではなく、新しい研究領域を切り開くような独創的な研究課題で申請して欲しいと思います。しかしどんなに良い研究計画でも、その魅力が審査員に伝わらなければ評価されません。重要なのは、研究費をたくさん取っている人や、審査員経験が豊富な人に見てもらう事です。ほんの少し構成や書き方を変えるだけで、伝わり方が大きく変わると思います。

 研究者を取り巻く環境は必ずしも良いとは言えませんが、基礎研究はやはり他の仕事には代えがたい魅力のある仕事です。ぜひ、大きな夢をもって研究に励んでほしいと思いまし、自分もそうありたいと思います。

将来の夢、研究を発展させるビジョンについて教えてください

 免疫系はT細胞やB細胞、マクロファージや樹状細胞、自然リンパ球など非常に多くの種類の細胞によって成り立っています。これまでも新たな細胞やその亜集団(サブセット)が見つかっては、これまで説明がつかなかった現象が理解される、という事が繰り返されてきました。線維芽細胞のサブセットを含め、全身にはまだまだ見つかっていない細胞はいると考えています。それらを見つけ、名前を付け、その機能的重要性を明らかにし、新たな研究領域を切り開いていくことが大きな夢です。

 特に本研究では、ウイルス感染時の線維芽細胞の重要性を明らかにすることで、より深く抗ウイルス免疫応答を理解できると考えています。個人的には、組織における免疫記憶の成立に関与する線維芽細胞サブセットに着目しています。最終的には、新型コロナウイルス感染症や今後起こりうる新興感染症に対するワクチン開発や治療・予防法の開発へとつながるような研究につなげていけたらと思います。

Profile

2022年度 化血研若手研究奨励助成
小泉 真一

九州大学 生体防御医学研究所
助教

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